「聴く」こと

(2024.10.1)

 「聴く」こと幼児教育の基本は、幼児理解と全面的受容であると思います。勝手にその子のことを思い込まず、分からなくとも子どもの言動からその子のことを理解しようと努めることが大切です。そして、まずはありのままその子のことを受け入れることです。全面的受容は、決してわがままをそのまま受け入れたり、ルールに反することを認めることではなく、生育歴や、その子の置かれている現状を含めて全てをまず受容することからスタートします。思い込みや先入観を排して、その子を理解しようとすると、近寄って来てたどたどしい言葉ながら色々話して来ます。幼児理解は、その子を見守り、寄り添い、待ち、耳を傾けることが大切です。

 時折、テレビや雑誌の「聞き上手」のインタビューのことが紹介されます。人から話を引き出すテクニックなどを語っていますが、相手に心から相槌を打つ、穏やかな表情でゆったりと聴き、話している最中に口を挟まず、など参考になります。

 Fちゃんは、私を見つけると、私が気づかないうちに、そっと近づいてきて、静かに私の手を握ります。暴れん坊のグループも私を見つけると闘いごっこを挑んできて、パンチやキックをして来ます。そうなると、おとなしいFちゃんは、引き下がる引き下がるしかありません。ですから、Fちゃんは、私を先に見つけると、「こっちに行こう」と、誰にも見つからない入口近くのベンチに私を誘います。ベンチに座ると、私に寄り添い膝に手を置いていろいろなことを話します。言っている事の半分位しか分かりませんが、家のこと、クラスのこと、家族で出かけたこと、あらゆることを話します。私はただ「ウンウン」とうなずいて聞いています。Fちゃんはそれだけでも嬉しそうです。そして、決まって「給食を一緒に食べようね」と言います。「約束だよ!」と念を押します。お昼になると、迎えに来ます。クラスに行くと、私の席を、自分の隣に確保してあります。クラスの暴れん坊グループが「ずるいぞ、こっち来て座って」と口を尖がらせます。

 Fちゃんと話していると、「聴く」ということが、単に話に耳を傾けることだけではなく、信頼する大好きな人に安心して心を落ち着けて話せる静かな環境にある時に、「聴く」ことができると思いました。言葉が通じなくとも、心がつながっていれば、言葉が出てくるのでしょう。思春期になって親と話したくないという時がきても、心が繋がっていれば、黙っていても通じ合うことができるようになると思います。