「鬼はエンチョウゴリラだもんね。全然怖くないよ」と言っていた子まであまりの恐ろしさに泣き叫びます。他の園の園長に、本園の豆まきの動画を見せたら、自分の園の赤鬼は、なんといい加減で、迫力のないつまらない鬼だろうと、感心しきりでした。泣きながら戦いを挑んでいる子に、最後は敗けることにしています。恐怖心を残したままにせず、正体を明かします。「君たちは、なんて勇敢で強いのだろう。君たちには勝てない。もう悪いことはしません。どうか許して下さい」と、手をついて謝ります。そして、お面を取ると、さっきまで、大泣きしていた子が、「やっぱり園長ゴリラだ!わかっていたもん。全然怖くなかったもんね。」と笑顔になり、抱き着いてきます。
しかし、サンタは決して正体を明かしません。夢を壊してはならないのです。できるかぎり万全に変装し、声色を変えて演技します。3,4歳児は信じ込みます。5歳になると、クリスマス会を楽しむより、疑いの目を凝らし、じっと観察し、バケの皮をはがしてやるぞ、と身構えている輩がいるのです。
クリスマス会を前にしたある日、月組のÑ君達が、「今日は僕たちのクラスで、給食を一緒に食べてよ。約束だよ!」と私を強引に拉致しました。給食を食べ始めると、クラスのリーダー格のK君が、突然、私に向かって、「クリスマスのサンタは園長ゴリラだぞ。あの目はこの目だった。声もこの声だった。サンタのいる間は、園長先生はいなかったし、サンタが帰った後に、園長先生が出てきて、園長先生の服にサンタの白い髭が付いていた。サンタは絶対に園長先生だ!」と去年のことを詳細に記憶していて、自説を見事に展開しました。それでも、「あれは園長ではないよ。本物のサンタだよ。」と擁護してくれる子もいましたが、クラスの子ども達の様子が激変し、みんなの私を見る目が冷ややかになっていました。私は「サンタが来た時は、後ろで見ていたよ。白い毛は園長先生の白髪だよ。ほら、見て」と、髪をかき上げて反論しましたが、K君の追求の方が圧倒的に優勢でした。
このままではまずいと一計を案じました。そして、当日の朝、秘かに代役をK先生に頼みました。クリスマス会も佳境に入り、いよいよサンタ登場。子ども達は、立ち上がり、両手を上げ「サンタが来た、本物のサンタが来たと大騒ぎです。すると、大きなK君が、みんなを制するように、「園長ゴリラだ!あれは園長先生だ!ニセモノだ!」と声を張り上げ、執拗に叫び続けました。そこで、手はず通リ、サンタが「ミスターアサダ、マイフレンドアサダ、私のお友達はどこ?」と呼びかけ、私が登場し、サンタが「オーマイフレンド」と言いながら私と握手しハグしました。K君は、驚愕のあまり、口をポカンと開け、大きく目を開き、「僕の立場はどうなるんだ!」とばかり、サンタと私をキョロキョロ見比べ、うろたえていました。クリスマス会の後、子ども達はみんな、「本物のサンタが来たよ」と喜んでいましたが、K君はうかない顔で静かに「サンタと友達だったんだね」とポツリと言いました。私は彼が可哀想になってきました。「みんなが本物だと喜んでいるからしょうがないよ。園長先生とそっくりだったもんな。でも、いつか君の目が素晴らしいことがわかるよ。」とか、なんとかいいわけがましく慰めにならない言葉で、彼を慰めようとしました。モニタリングではないので、正体を見せるわけにはいかないのです。みんなの夢のためにK君許して下さい。本当は君が正しいのです。
●追伸、保護者の皆様、この文章は極秘です。決して子どもの前で話題にしないでください。